首や腰などの脊椎の手術は、多くが全身麻酔での手術です。
手術は、外科医、麻酔科医、および看護師によるチームで行うものです。
いったんオペ室に入ると、患者さんはただ手術を受ける、という状況になります。
しかし、手術が決まってから実際に手術を行う日までに、患者さんにも準備できること、備えて頂くことがあります。
それは、禁煙、禁酒、減量 です。
①禁煙
手術前にタバコを吸っていることが分かれば、手術を延期して頂くことがあります。
喫煙により、痰が増えやすくなり、しかも出にくくなるので、手術後の肺炎のリスクになります。
全身麻酔の手術後に、喫煙者が肺炎などの呼吸器の合併症をおこすリスクは、非喫煙者の2~4倍に増大するといわれています。
また、タバコにより全身の血流が悪くなるので、手術のキズの治りも悪くなります。インプラントを設置する手術では、感染のリスクも増えます。
周りの人が吸っている、いわゆる受動喫煙もダメで、自分で吸うのと同じくらい有害です。
もし家族さんが喫煙しておられる、という方は、場所を変えるなどご家族さんにも協力を仰いでください。
禁煙は、早ければ早いほど良いです。できれば手術前1カ月以上が理想ですが、1カ月を必須にしている病院もあります。
②禁酒
飲酒は肝臓に負担をかけます。
肝機能が悪いと感染症のリスクが高まり、術後の回復にも影響します。
術後せん妄という、時間や場所が急にわからなくなる、注意力や思考力が低下して様々な言動を起こす、睡眠リズムが崩れるなどの症状を出すリスクにもなります。
できれば1週間くらい前からはお酒を止めた方が良いでしょう。
③ 減量
手術を予定されている患者さんは、痛みが強い、歩きにくいなど、基本的に症状が強くなっています。
あくまで、可能であれば、という前提でお読み下さい。
(内視鏡手術はあまり影響を受けませんが)一般的な脊椎手術では、手術の術野、つまり手術の作業を行う場所が皮膚から遠くなるので、肥満の方では手術が一層難しくなります。
さらに、肥満の患者さんは、手術後の感染、肺炎、心臓の合併症などのリスクも高くなります。
そして、手術後に下肢の深部静脈血栓という疾患、つまり足の静脈に血栓ができやすくなります。
それが肺塞栓という、肺の血管が詰まる疾患のリスクになります。血管が詰まる場所によっては命の危険な状態になり得ます。
どの病院でも医療用弾性ストッキングなどで予防の対策を講じていますが、リスクを完全に無くすことは出来ません。
ですから、脊椎の手術を受ける予定で、待機期間があって、かつ運動などが可能であれば、減量を試みてください。
たとえば腰部脊柱管狭窄症の方では、歩くのは難しくても、エアロバイクなどは出来るという場合もあります。
まとめ
外科治療が必要になった患者さんに、安全に手術を受けて頂き、無事に退院して頂くために、
たとえ0.1%でも治療のリスクを下げるために、我々医療者は努力を惜しみません。
そこで患者さんにも協力頂くと、無事に治療が終えられる確率は一層高くなります。
治療は医者だけ、患者さんだけで終えられるものではありません。
無理のない範囲で、手術の前に御自身でも出来ることを頑張って頂ければと思います。
少しでもリスクを下げる努力には、それだけの価値があると思います。