人は誰でも年齢とともに脳の働きが低下し、年齢相応に物忘れが見られるようになります。
多くの人は60歳ごろになると記憶力に加えて判断力・適応力などが、若いころと比べると下がるようになります。特に自覚されやすいのが、記憶力の低下で、物忘れが次第に多くなるのもこの時期です。
物忘れで一番心配されるのは、アルツハイマー型認知症に代表される認知症でしょうが、心配される前に、まず重要なことは、物忘れの原因が他の病気や薬の影響などでおこっていないか、または物忘れによく似た別の症状ではないか、を確認することです。
治療できる病気が原因であれば治療する、薬の影響なら、中止できるものは中止する、という対応が出来ます。
今回は、物忘れの原因になる病気や薬、物忘れとよく似た症状、などを説明します。
物忘れの原因として考えられる病気を挙げていくと、
①頭の病気
水頭症 :これは、脳の周りに流れている脳脊髄液という水が、溜まっている病気です。
慢性硬膜下血腫:脳と頭蓋骨の間に血液が少しずつ溜まってくる病気です。
脳腫瘍 脳のできもの
などがあります。上に挙げた頭の病気は、多くが治療出来るものです。
物忘れが気になる方は、まず一度はMRI撮影など頭の検査を行って、こういった病気が隠れていないことを確認する必要があります。
②お酒
アルコールの大量に摂取することで起こる認知症を「アルコール性認知症」といいます。
注意力・記憶力の低下、感情のコントロールができないといった症状が現れます。 アルコール性認知症は、お酒をやめ、治療を受けることで回復できます。
③せん妄
せん妄とは、身体に負担・ストレスがかかった時に出てくる「意識が混乱した状態」です。
原因になるのは、脱水、感染、炎症、貧血、薬などです。
入院した患者さんの2~3割に起こり、特に高齢の方が入院された場合には起こりやすいです。
治療は、せん妄の原因になっている病気、つまり先ほど話した、脱水や感染、貧血などがあればそれに対する治療であったり、薬が原因なら、その調整を行います。
特に眠剤、睡眠薬の一部はせん妄を起こしやすいことが知られていますので、出来る範囲で中止します。
④うつ病
うつ病でよくみられる、気分の落ち込みなどの症状よりも、物忘れが前面に出ている、うつ病の患者さんもおられます。
年配の人のうつ病の場合、認知症との区別がとても難しい場合もあります。
認知症の物忘れと違い、うつ病やストレスが原因の物忘れは、知能が低下しているわけではなく、脳全体の働きが弱って集中力の低下などが原因になって起きています。
記憶が完全に抜けることはなく、よく考えれば思い出すことができます。
うつ病が原因であれば、そちらに対しての治療を考えます。
⑤てんかん
まず、てんかんとは何か、簡単に説明しますと、脳には何万個も神経細胞があって、電気信号を出して活動しているのですが、
その神経細胞の電気信号がコントロールできなくなって、過剰に電気信号が出ている状態をてんかんといいます。
脳で出てくる、不整脈のようなものとイメージして頂くと良いでしょう。
てんかんが原因で物忘れが出る場合には、数分 ~ 数時間 もの忘れの症状が続いた後、元に戻ります。
このようなもの忘れであれば、てんかんの可能性があります。
⑥飲み薬
抗コリン薬:これは、自律神経のひとつである副交感神経が、さまざまな臓器に影響を及ぼすのを抑える薬です。気管支喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、腹痛や頻尿、パーキンソン病、などで使われることがある薬です。
H2 blocker:胃薬、薬胃酸分泌を抑える薬として、市販薬でも多く売れている薬です。
抗うつ剤:うつ病で使われる薬です。
睡眠導入剤:眠剤
ただ、当然ですが、こういう内服薬は、飲んだら人皆に物忘れが出るわけではないです。物忘れの原因になっている可能性がある、ということですし、必要だから処方されているわけです。
担当の先生と相談して、他に代わりになるものがあれば変える、減らせそうなら減らす、など、いろいろな対応を考える必要があります。
⑦そのほかの疾患
甲状腺の働きが落ちている場合、ビタミンや葉酸などが不足している場合、腎臓や肝臓機能が落ちているか、あと昔に輸血などされたことがあるなら、念のために梅毒やHIVなどを確認します。
まとめ
物忘れが最近多くなってきたとしても、年齢のせいだけではないかもしれません。
気になる方は頭の専門の医師を受診し、原因になるような病気がないのかどうかを確認して、必要があればMRIなどの検査を受けて頂いた方が安全でしょう。